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[M-51] Trousers-shell / 「魅惑の脱力系カーゴパンツ」

更新日:2022年12月6日



こんにちは

ハンガーパークの nave です。

今回は、動画でご紹介した [M-51 / オーバーパンツ] について、もう少し詳しくお話ししておきましょうか。 覚悟は良いですか?笑笑

動画内でもお話ししましたが、こちらはあくまでもオーバーパンツです。

フィールドパンツの上に履くもの。

“シェル(貝殻)“ と、名付けられているのもそのためです。

なぜそんなものが必要だったのか?

その理由やルーツについては、後半でお話します。

ここでは、まずディテールについて。

併せて、オーバーパンツならではの特徴的なポイントも解説していきます。









1【 ディテール解説 】

A ウエストのドローコード

このパーツが、一番オーバーパンツらしい仕様なのではないでしょうか?

ミリタリーウェアで、ドローコードは決して珍しい仕様ではありません。

例えば、イギリス軍のフィールドパンツや、その流れを汲む国の軍装にも見てとれます。


一方で、アメリカ軍のドローコード仕様はやや珍しく、基本的にはこの様にオーバーパンツへの搭載が中心です。


コードのタイプも、分厚い平紐のような物ではなく、スッキリとした丸紐のようなタイプ。

腰周りの印象も、臭みのないイメージをキープしています。


B 貫通式ポケット


何度も繰り返しますが、こちらはオーバーパンツであり、本来は下にフィールドパンツを履くものです。

つまりは、トラウザー(パンツ)のためのアウターであり、カバーとしての役割を超えないものです。


※ ちなみに、[M-51 フィールドパンツ]も本来はオーバーパンツとして開発されている。ただ、フィールだパンツは貫通式ポケットではありません。後述します。

当然そうなると、下に履くフィールドパンツのポケットから物が取り出せないと困る訳です。

もしも貫通式のポケットでなければ…


緊迫した戦地において、いちいちオーバーパンツを脱いでは、下のフィールドパンツから弾薬etcの必要なものを取り出す様は、あまりにも滑稽な訳で…。

さて、翻って現在。

この様なオーバーパンツを、一つの完成したパンツとして履くためには、逆に貫通式のポケットは不便でしかありません。

パンツポケットに、常にiPhoneを入れてしまっている私などは、おそらく無意識のうちにポケットにiPhoneを滑り込ませ、そのまま地面にダイブさせるでしょう。

アスファルトに打ち付けられたiPhoneの、無惨にも砕けたディスプレイの姿は、容易に想像できますww。

そこで!

こちらはポケット部分をリメイクして、ポケット袋を作成しました!


なんということでしょう…

匠の技で、究極の深みと美しい丸みを帯びたポケットは、あなたの手を常にポケットの中へ誘うことでしょう。

ま…。

便利になりましたよ!ってことが、言いたい訳です…。


C カーゴポケット


[M-51 フィールドパンツ] 。

これがカーゴパンツの元祖と言われています。


その ”シェル(カバー)” である、こちらのオーバーパンツにも、カーゴポケットは当然ながら標準装備されています。


存在感のある大容量のカーゴポケットは、大きめのマチとプリーツが重なり、圧倒的な収納力を誇っています。

今現在、ここに何かを入れて使用することは稀だと思いますが、デザインとしては完成された物だと言えるでしょう。




また、カーゴポケット内には、謎のストラップがあるのはご存知でしょうか?

ミリタリー / 古着好きの方は既にご存知かと思いますが、こちらは止血用のストラップ。


また、ゲリラ戦や隠密性の高い任務、行軍において、ポケット内部の物が揺れ動く音が致命的なものとなることを防ぐために、このストラップで縛ることで音を防いでいたとも言われています。



いづれにしても、機能性を追求したことによるデザインであり、なんとも言えない魅力が細部にも宿ります。


D ポケットフラップ


俗に、カーゴパンツは “6ポケットパンツ“ と呼ばれます。

通常の、前後4つのポケットに加えて、左右のカーゴポケットが2つ加わるので、"6ポケット" となるのですが、こちらのオーバーパンツはヒップポケットが1つしかありません。



結果、こちらのオーバーパンツは、カーゴパンツですが6ポケットパンツとは呼べません。

→ ただの揚げ足取りですww お気になさらずに。

 ※ ちなみに [M-51 フィールドパンツ] は、しっかりと6ポケットです。


また、ポケットには全てフラップが備えてあリます。

ミリタリーアイテムらしい無骨さが垣間見えて、[M-51] を名作に仕上げるディテールの一つと思います。



※ 通常のパンツには、基本的構造として、フロントに2つ / ヒップに2つの合計4つのポケットがあります。

デニム等のパンツには、そこにコインポケットが加わることから、“5ポケットパンツ“ と呼ばれるのは周知の通りですね。


E 膝のアクションプリーツ


こちらも [M-51] や後継の [M-65] に見られるディテールです。

動きやすさを追求して、膝には2つのアクションプリーツが採用されています。



F フロントジップ


アメリカ軍が、本格的にスナップボタンやジップパーツを戦闘服に採用しはじめたのが、この [M-51] からです。

※ 古くは第一次世界大戦時の航空部隊用のウェアに採用されています。


こちらのオーバーパンツには、世界で初めてジップを開発した米国「TALON社」製のジップを採用。

ヴィンテージ好きも納得です。



G シーム(縫い目)部分


U.S のカーゴパンツで良く間違えられる、[M-51] と [M-65] の違い。

幾つかありますが、よく見ると決定的な違いがこちら。


[M-51] までは、シームがダブルステッチ。

[M-65] になると、シングルステッチに変更になります。

※ 60年代製造の [M-65] には、ごく稀にダブルステッチも存在するのでご注意を!


オーバーパンツであるこちらの [M-51] にも、しっかりとダブルステッチのシームが採用されています。


ヴィンテージでタグが外れていたり、状態が古くて分かりにくい時は、このステッチを確認してみるのも一つかと。





H 生地


[M-51 フィールドパンツ] がコットン100%の生地であるのに対して、こちらのオーバーパンツはコットンとポリエステルの混合生地で、かつポプリン織という軽やかで艶やかな生地を採用。


これが、このオーバーパンツにスポーティーな印象を与えており、今見てもヴィンテージ特有の重たさや臭みを感じさせない、最大のポイントだと個人的には思います。




I その他


・ライナーを留めるボタンがある

・サスペンダーループあり

・ラベルは直接印字

・裾にもドローコードあり





※ [M-51 フィールドパンツ] には、腰回りにサスペンダーボタンと内側にループもあるが、オーバーパンツはサスペンダーループのみとなっています。



[M-51] フィールドパンツ / オーバーパンツ のディテール差


[M-51フィールドパンツ] とのデザイン的な大きな違いは、上記の中から3点くらいでしょうか。


おさらいすると…


・ウエストがドローコードになっている

・ポケットが本来貫通式である

・ヒップポケットが片方のみである


その他は、軽微な差はあれども、基本的にはフィールドパンツもオーバーパンツも、ほぼ同じディテールを備えています。


3 [M-51 オーバーパンツ] の魅力


で…

改めて、こちらの [M-51 オーバーパンツ] に惚れ直している訳ですが。


眺めてみても、やはりカッコイイ。 久しくカーゴパンツに足を通していなかったが、ここ最近のリバイバルムードもあり、純粋にカーゴパンツが気になっていたところ。

全体的にゆるめトレンドの続く今、こんなにもパンツ単品で【リラックス感 / 80 s 的カジュアル感 / 現代的スポーティー要素】 を併せ持つヴィンテージは限られてきます。



もはや枯渇気味の [M-51 フィールドパンツ](通常M-51カーゴというとこちら)と比較しても、基本的なデザインはほぼ同じなので、パンツとしての存在感は強く、しっかりとコーディネートのポイントとなります。


それでいて、力の抜け方があまりにも絶妙。

ミリタリーらしからぬ、そのクリーンな生地感や細部に拘られたバランスは、まさに「魅惑の脱力系カーゴパンツ」!!


芯は持ちつつ、程よく肩の力が抜けた自然体。

そんな大人の理想の姿を、こちらのオーバーパンツに重ねてみますww。


理想には程遠い自分の生き様を誤魔化すためにも、まずは装いからだけでも、オーバーパンツをスタイルに取り入れようと、密かに心に誓いましたww。


私のような中年の日本人体型にとって、着こなしのポイントは腰周りの処理にあります!


これだけのルーズフィットで、太もも周りにもしっかりとデザインが施されたパンツです。

当たり前のことですが、できるだけシンプルにまとめるのがオススメ。


特に、トップスの着丈は太ももにかからない位のもの(もしくは思い切りロングで)が纏まりやすいのは間違いありません。

また、トップスデザインもシンプルを心がけると、煩くなくてGOODです。


そう。

現実世界でも、しつこい大人は嫌われるんですよ…。

(実体験あり 涙)



4 [M-51] シリーズのルーツ解説


私は [M-51] というシリーズが大好きです。

もちろん、フィッシュテールコートやフィールドパンツ等、純粋にカッコイイのですが、それ以上に、時代の移ろいや背景が感じられて、なんとも言えない魅力が宿っている様に思えます。


さて、本題のルーツについて。

※ オーバーパンツについてというよりは [M-51] 装備全体のお話し。


[M-51] とは、言うまでもなく、1951年に採用されたアメリカ軍の戦闘服 / 装備のこと。


時代背景としては、1950年に勃発した朝鮮戦争の最中。

二度に及ぶ世界大戦の戦地となり、力を落としていったヨーロッパの大国と比較して、本国は力を残しながら戦勝国として大きな力を持ったアメリカは、20世紀の超大国として冷戦時代に突入していった時代です。


第二次世界大戦中に開発された、アメリカ軍の戦闘服 [ M-43 ] シリーズは傑作として評価も高く、後世の戦闘服に大きな影響を及ぼしていく存在でした。

アメリカ軍は当初、この [ M-43 ] 装備にて朝鮮戦争に参戦しました。


しかしそこは、凍てつく北方での戦闘となり、これまでとは勝手が違いました。

また、今後の時勢を見ても、ソ連を中心とした社会主義勢力との争いの激化は間違いなく、寒冷地対応の機能的な戦闘服の誕生は望まれていました。


そこでアメリカ軍は、より多極的な戦地に対応できるように、新たな戦闘服の開発に取り掛かります。

1950年当時、[M-43] シリーズの後継として、[M-50 フィールドジャケット] が開発されましたが、こちらはわずか一年と短命の装備となります。

しかし、これをプロトタイプとして更なる改良を加えた新開発が進みます。


そうやって誕生した [M-51 ] シリーズ。

戦地での声をフィードバック、世界の最先端を行く自国のテクノロジーを惜しみなく結集させて開発、1951年にローンチされたものが [M-51] シリーズです。


汎用性を確保するべく、基本となるフィールドジャケットとフィールドパンツには拡張性が与えられ、ライナーやシェルパーカ / シェルパンツと様々なオプションが開発されました。


寒冷地での戦闘に向けて、フィールドパンツ自体にもライナーは装着可能。


さらにその上にオーバーパンツを備える拡張性能は、当時のミリタリーウェアにおいては革新的であり、事実として慣れない寒冷地域に派兵された兵達に受け入れられたのでした。


結果的にそのアグレッシブな開発姿勢は成功し、1965年の [M-65] シリーズや、それ以降もECWCSシリーズなどに拡張性は受け継がれ、今日までのアメリカ軍の力を支え続けています。


[M-51] シリーズは、アメリカ軍の戦闘服としても、のちのファッションへの影響を考えても、大きなターニングポイントとなったと言えます。


[M-51] から、スナップボタンやジップパーツが、いわゆる戦闘服にも正式に採用されていきました。

それまでは、空軍パイロット用の装備に用いられたりと限定的なパーツ使用でありましたが、アメリカの国力の発展に伴う技術革新によって、頑強さやコスト面、利便性といった側面において、これまでのボタンを使用するメリットを、スナップボタンやジップが上回ってきたのです。


[M-51] が現代ミリタリーの元祖と言われる所以です。


それでいながらも、パンツの腰周りにはサスペンダーボタンが備わっていたり、ジャケットの襟が折り返してあったり…

所々にクラシックなデザインの名残を残しています。


今の気分とクラシックなムードの融合を、意図せずに果たしている、ファッション的にまさに完璧とも言えるデザインは、数多くのファッションシーンを彩っていくことになります。


中でも1960年代の英国の若者のカルチャーを描いた映画、「さらば青春の光」(1979年:英) におけるモッズスタイルは、スーツにミリタリーコートというギャップを、強いインパクトで世の中に印象付けました。


当時のイギリスのファッションシーンや時代感が感じられる良作映画ですが、いわゆる「拗らせ系の主人公ジミーが、ひねくれて…いじけて…青春に幻滅する映画ww」で今見ても賛否はあると思いますが、着こなしのカッコよさは群を抜いています。

※ オーバーパンツは登場しませんww


ぜひ見て欲しい映画です!!

ヴィンテージやミリタリーファッションが好きな方であれば、必見です!


あぁ、スッキリした…。

これだけ語りましたが、好きな映画を紹介したい欲求があった様です…ww。



[M-51[ は15年というスパンで最前線で使用されますが、その後時代が進むにつれて、また新たな装備[M-65] シリーズが登場し、その役割を終えていきます。


そうすると、当時の市場には [M-51] の放出品が大量に出回ったこともあり、お金のない若者を中心に機能性とデザイン性が高いミリタリーウェアは、カジュアルトレンドの一翼を担っていく事になります。


また、そうやって青春時代を過ごした若者が大人となり、普段着にファッションアイテムとしてのミリタリーウェアは、当たり前となりました。

中には、実際にデザイナーとなって洋服を産み出す者達もいて、自身の受けた影響をコレクションに反映させて、もはやファッションとミリタリーは切っても切れない関係となっていったのです。


今この瞬間にも、きっと同じことが起きていて、20-30年後には「あの時は○○だった…」って語ってるんだろうと思うと、人の営みって本当に面白いですね。


随分脱線もしましたが、[M-51] の魅力は伝わりましたか…??


オーバーパンツを履く際に、ほんの少しでも思い出してもらえたら嬉しいです!



では、またー!!



2022.2.13 nave

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